2015年03月08日

「言葉のセクハラ」問題?〜最高裁平成27年2月26日判決

最高裁は,先月26日,部下の女性にセクハラ発言を繰り返した男性管理職を出勤停止とした懲戒処分の取消しを求める訴訟において,処分は妥当とする判決を出した。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/883/084883_hanrei.pdf

東京新聞は,
「言葉のセクハラは大したことがないと考え,対策が遅れている企業には強い警鐘となるだろう」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015022702000157.html
という記事を出し,
読売新聞は
「言葉のセクハラ 厳格な処分を支持した最高裁」というタイトルで「言葉のセクハラを軽視する風潮は,一部に根強く残っているのも事実だろう。セクハラに対する意識改革をさらに進めたい。」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20150226-OYT1T50186.html
という記事を出しているが,なんとも違和感を覚えた。

降格及び出勤停止になった社員の一人は,1年間にわたり,部屋で二人きりの状態で
「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」
「30歳は,おばさんやで。」「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」
「お給料足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」
などの発言を繰り返し,派遣社員を退職に追い込んだと認定されている。

これらの発言は「言葉のセクハラ」という問題以前に,悪意をもって部下が嫌がることを言い続けて部下を辞めさせたとしか思えない。これでは,懲戒処分とされても仕方がないであろう。

上記のような発言を密室で繰り返し退職に追い込むことは,普通に悪いことであり,言葉のセクハラだからといって軽視されるという問題ではないように思える。
「言葉のセクハラ」などという難しい問題ではなく,「部下に嫌がらせをしてはいけません」という当たり前のことであろう。

もっとも高等裁判所は,
被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず,本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していた
と認定し,悪意はなかったと判断している。

しかし,上記発言は,悪意に基づいていない,いわば「スキンシップ」とはとても思えない。
具体的事情が分からないので何ともいえないが,密室においてスキンシップとして「結婚もせんで何してんの。親泣くで。」「夜の仕事とかせえへんのか。」と言う状況は,私にはちょっと想像ができない。
関東の最高裁が大阪高裁の判決を引っ繰り返したわけで,もしかすると関西人の文化は関東人の私とは違うのであろうか・・・。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

金沢市の人気ブログランキング
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。↑↑
posted by 内田清隆 at 21:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2013年11月16日

競業避止義務特約の有効性の判断ポイント

従業員が退職後,ライバル会社に就職するのを辞めさせたい!というニー ズはかなりある。
私自身もそのような裁判に何度か関わったことがある。

そのときに,いつも問題となるのが「ライバル会社で働くことを禁止する」といった就業規則や誓約書,すなわち競業避止義務特約である。

契約は本来自由であるはずである。
しかし,競業避止義務特約は職業選択の活動の自由を制限するものであるため,一定の場合にしか有効にならないのである。

この点,経産省が,過去の裁判例を詳しく分析し,有効性判断のポイントをあげている。
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html#kuwashiku

乱暴にまとめると以下のとおりである。
・会社に営業秘密等の守るべき利益がないとダメ
・従業員すべてはもちろん特定の職位にある者すべてを対象と している場合はダメ
・競業避止義務期間が2年以上となっているとダメ,1年以下にすべき
・競業を禁止するかわりに手当等の代償措置が設定されていないとダメ

これらはなかなか厳しいもので,数年前に読んだ本と比較してもそのハードルは上がっているように思える。
中小企業において,従業員によって誓約書を使いわけ,それにふさわしい代償措置を準備するというのは容易な話ではないだろう。

当然のことではあるが,ライバル会社に転職されないように,「よい会社」にするというのが一番大切ということであろう。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

金沢市の人気ブログランキング
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。↑↑

posted by 内田清隆 at 20:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2013年08月12日

労働審判に強い弁護士

労働審判では口頭での審理を重視するというのが建前であった。
しかし,多くの審判官は,実態についてはほとんど書面だけで審理し,口頭で行うのは和解に向けての交渉ばかりというケースが多い。

そうなると労働審判に強い弁護士に必要な能力は,
@説得的な書面の作成能力
A的確な和解をする能力
ということになるであろう。

説得的な書面の作成能力は常に要求される弁護士の基礎的能力であるが,労働審判において的確な和解をする能力はやや特殊である。

労働審判の大きな特徴は3回で終わってしまうという点であり,とにかく時間制限が厳しい。
そのため,審判官も早急な和解を求めてくるので,和解といっても,駆け引き的要素は乏しく,審判官の提示する和解案を承諾するか否かについて即決を迫られるケースが多い。
したがって,労働審判において的確な和解をするには,和解案の妥当性の判断,つまり訴訟となった場合の結論の見通しを的確にすることが重要である。

しかし,これがなかなか難しい。私の経験からしても,全国の平均からしても労働審判から訴訟へ移行するケースは少なく,多くは和解によって終わってしまう。そのため,訴訟となった場合の経験が少なく,訴訟での結論の見通しを理解するのが困難なのである。

そう考えると,経験に頼らず多くの裁判例を読み,勘を養うしかないのであろう。どんな案件でもその勘が重要であるが,労働審判では特に重要だ。

労働審判については問題点も感じるが,早期解決という点で非常によい制度だと思う。
労働審判に強い弁護士になるべくもっと精度の高い勘を養っていきたいところである。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

金沢市の人気ブログランキング
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。↑↑


posted by 内田清隆 at 17:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2013年04月25日

労働者の無断欠勤と解雇

無断欠勤を続ける労働者を解雇する場合,何日ぐらいの無断欠勤であれば解雇できるのであろうか?

 「労働者の責に帰すべき事由」に基づき解雇予告手当なしで即時解雇するためには,労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受ける必要がある。
 そして労働基準監督署では,「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」であるかどうかという基準に従い,解雇予告除外認定をしている。
(参考)
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/tokyo-roudoukyoku/seido/kijunhou/shikkari-master/pdf/kaiko.pdf
 そうすると,一応は「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し,出勤の督促に応じない場合」であれば,即日解雇が可能と考えられそうである。

 裁判例はさまざまである。

 平成24年4月27日の最高裁判例では,40日の無断欠勤であっても解雇(諭旨退職の懲戒処分)は無効であると判示している。
 精神的疾患が疑われ,「妄想と思われる問題が解決しない限り出勤しない」とあらかじめ使用者に伝えていたという特殊事情が存在した場合であるが,なかなか厳しい。

 昭和60年5月24日東京地裁判決は,経歴詐称での解雇を認めた事例であるが,17日間の無断欠勤があったとしても,仕事熱心であったなどの事情を考慮すると,無断欠勤を理由とする解雇は無効であると判示している。かなり微妙な例に思える。

 平成6年5月30日大阪地裁判決は,職場でもめて2日間の職場放棄(無断欠勤)を理由とする解雇を無効と判示している。同じく平成7年10月31日山形地裁判決も職場でもめて1日間の無断欠勤を理由とする解雇を無効と判示している。よほど特別な事情がない限り1日,2日の無断欠勤で解雇することは不可能であろう。

 解雇を有効とする裁判例がなかなか見つからなかったが,6ヶ月の無断欠勤を理由に解雇を認めている平成2年11月8日横浜地裁判決があった。しかしながら,6ヶ月の無断欠勤が解雇理由にならないはずもないであろう。

 結論として,何日間の無断欠勤であれば解雇できるということはいえず,無断欠勤に至った事情によって,いろいろと異なるというしかなさそうである。

この記事を書いていたら,1月下旬から行方不明無断欠勤を続けた珠洲警察署の20代男性巡査長を分限免職とすることになったという4月18日の報道を発見した。http://www.hab.co.jp/headline/news0000011479.html分限免職は,勤務実績などを理由に公務員を退職させる制度で,懲戒処分ではない。詳しい事情は分からないが上記最高裁判所の判例を踏まえて3か月の無断欠勤でも懲戒免職はできないと判断したのかもしれない。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

金沢市の人気ブログランキング
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。↑↑
posted by 内田清隆 at 11:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2013年03月05日

ブラック会社は労働紛争にならない?

残業代もろくに支払わないで不当解雇を繰り返す,いわゆるブラック会社。そのような会社は,頻繁に裁判所に訴えられ,多数の労働紛争が生じるはずだ。そう思っていた。
 しかしながら,個人的な経験でいうと逆である。従業員の待遇が非常に良く,給料も高く,休みもきちんと取らせる,そんな会社こそ,よく訴えられており,労働紛争が生じている。
 
矛盾した話だと思われるが,考えてみれば合理的である。
裁判になるほとんどの労働紛争が解雇を巡る紛争である。
そして,非常に良い待遇の会社に勤めている者にとって,解雇は大きな問題となる。そう思うと,不当でない解雇であっても,なんとか裁判所に訴え出て,解雇を取消したいと思うであろう。
一方で,ブラック会社に勤めている者にとっては,解雇された会社よりいいところはたくさんある。そう考えると,大変な裁判をしてまで争うよりは,別の就職先を見つけて,そこで働いた方がいいと思うのは自然である。

人間は必ず慣れるものである。いかに好待遇であっても,それだけでモチベーションは上がらない。もちろんブラック会社であるべきだということではない。しかし,好待遇であるから,労働紛争は生じないという考えは甘いということは間違いない。

世の中なかなか難しいものである。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

金沢市の人気ブログランキング
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。↑↑
posted by 内田清隆 at 10:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2012年05月28日

精神異常を理由に解雇できるか?

 ある従業員が,事実でないにもかかわらず,
「自分は3年間にわたり,加害者集団やその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視されている。」
「加害者集団から職場の同僚に情報が伝わっていて,同僚から嫌がらせを受けている。」と言ってきた。
そして,
「このままでは危険だから事実が明らかになるまで出勤しない。」
と述べ,有給休暇をすべて取得し,40日も欠勤を続けている。

 さあ,どうしたらよいであろうか。

従業員が,明らかに精神異常をきたしている場合,会社はどう対応すべきであろうか。

 上記は,平成24年4月27日の最高裁判決の事案であり,実際にあった話である。
 その事案では,会社は,その従業員に対して,正当な理由なく無断で欠勤したことを理由として諭旨退職の懲戒処分とした。
 
 しかし,最高裁は,会社の処分を不当として,その懲戒処分を無効と判断した。
 最高裁は,「精神科医による健康診断を実施するなどした上で・・その診断結果等に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべき」であると判示し,本件処分は,懲戒事由を欠き,無効であると判断したのである。

 つまり,正解は「あなたは精神異常の疑いがあるから病院にいきなさい」と命じなければいけないということになる。
 
 冷静に考えれば,最高裁の判断はもっともなものであると思う。
 しかし,相当に言いづらい話だ。



↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

金沢市の人気ブログランキング
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。↑↑
posted by 内田清隆 at 11:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2012年04月02日

内々定取り消しは違法になるか?その2

以前のブログでも紹介した内々定の取消しが不法行為に当たるとした福岡地裁判決は福岡高裁でも,維持されたものの,慰謝料額は,75万円から20万円に下げられたようである(福岡高裁平成23年2月16日判時2121号137頁)。

75万円でも低額だと思っていたのだが,20万円は実に低額に思われる。私自身が就職活動をしていた頃は遠い昔となってしまったので,「内々定」がどのような意味を持つのかが定かでなくなってしまったが「内々定」とはそんなものなのかもしれない。
しかし,地方裁判所,高等裁判所と争って20万円では弁護士費用にも大きく満たないであろう。そうすると,実際上,内々定取消しについて,訴訟で争うのは不可能に近いということになる。

本件は,会社の経営状況が悪化したというのが内々定を取り消した重要な理由のようであるが,「重要情報の提供となりかねない経営状況の詳細説明は困難であった」という会社の主張は理解できる。内々定を出したとはいえ,経営状況がどれほど悪化しているのかを詳細に説明するのは,風評被害が生じる恐れもあるところであり,会社としては行いづらいであろう。

しかしながら,裁判になってしまい,判決が公開されれば,よりいっそうの風評被害が生じる恐れもある。それを考えると,広く出回る恐れがある書面で詳細に説明するのでなく,口頭で親切に説明し,何とか理解を求めることが必要なのであろう。

内々定取消しによる慰謝料額がいくら低額であるからといって,採用するという意思をいったん見せた後に取り消す場合は,誠意を尽くさないといけない。当たり前のことであるが,忘れてはならないことであろう。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

金沢市の人気ブログランキング
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。↑↑
posted by 内田清隆 at 10:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2012年03月02日

橋下市長による職員のメール調査の合法性

 弁護士でもある橋下大阪市長が,問題視する職員の政治・組合活動の実態解明のために,市職員のメールの内容を秘密裏に調査しているというニュースが最近あった。

 橋下市長は「法的に問題はない」と言っているが本当であろうか。

 以前のこのブログにも記事(これこれ)を書いたのだが,従業員のメールを会社は監視(モニタリング)することができるかという問題である。

 経済産業省のガイドラインには
「あらかじめ労働組合等に通知し、必要に応じて、協議を行うことが望ましい。・・・労働者等に周知することが望ましい。」と記載されている(30ページ)。
 すると,橋下市長の調査は「望ましくない」ということになるが,「望ましくない」からといって「法的に問題がある」ということにはならない。

 上記ブログ記事にも書いたが,古い裁判例では,メールの監視の合法性については緩やかな基準で認めており,
@専ら個人的な好奇心等から監視した場合
A社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合,
など特別な場合でなければ従業員のメールの監視は違法にならないとしている。

 しかしながら,橋下市長のメール調査は,かなり秘密裏に行われているようであり,上記緩やかな基準でもAに反する違法なものと評価されかねない。

 そもそも,プライバシー権がうるさく主張されている中,上記裁判例の緩やかな基準が今後も維持されるのかも疑わしい。

 そうなると橋下市長のメール調査の合法性について相談を受けたとすれば,「裁判をしてみないと確実なことはいえないが,違法と評価される可能性が相当に高い」と回答することになるであろう。
(もっとも上記ニュースが事実であるかは確認していない。)

 政府とけんかをする気であればともかく,利益を追求する私企業としては,従業員のメールを監視するにしても,
・就業規則等の明文のルールにして,
・それを従業員に周知しておくこと

がリーガルリスクを減らすために最低限必要であろう。

 今後ますますメールの重要性が高まる中,メールの監視の必要性も高まる。
 きちんとしたルールを作ることが重要となろう。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

↓↓参加しています。クリックでご協力お願いします。↓↓
金沢市の人気ブログランキング
posted by 内田清隆 at 16:27| Comment(1) | TrackBack(0) | 労働問題

2011年12月15日

給与減額の黙示の承諾

 従業員の給料を減額するには,よっぽどの理由が必要であり,一方的な減額は基本的に無効である。

 では,経営が少し厳しかったため,50万円の給料を30万円に減額されたとして,2年たった後に「給料減額は無効であるから,差額分の20万円×2年=480万円を支払え」と請求することはできるだろうか。

 使用者としては,「2年間文句言わなかったのにいまさらなんだ」と文句を言いたいところであろう。
 法律的にいえば,給料減額についての黙示の合意の成立が認められるかという問題である。

 裁判所は,基本的に「一方的に賃金を減額したのに対して労働者が不満ながら異議を述べずにこれを受領してきたからといって,これをもって賃金の減額に労働者が黙示の承諾をしたとはいえない」(大阪高判平3.12.25)という立場であり,黙示の合意の成立を認めない。
 そのため,使用者の「2年間文句言わなかったのにいまさらなんだ」という主張は通らないと思っておくべきだろう。

 もっとも,裁判になっている例を見ると,まったく従業員の意思を無視して理由なく給与の大幅な減額を行っている「これは,ひどいなあ」と思われる例が多い。
 しかも,給与の減額後,割と短期間のうちに,解雇などをめぐって法的紛争が生じているという特異なケースばかりだ。

 そのような特異なケースでなければ,給与の減額についての黙示の合意の成立も認められるのだろうと自分は思う。
 しかし,そのような場合は,普通は裁判にならない。
 そのため,そのような場合が裁判になったらどうなるのかは,予想ができないのが実際だ。

 いずれにしても,使用者としては,きちんと従業員の同意を得ないで給与を減額した場合には,それから相当に時間がたった後でも,「減額は無効であるので,その分を支払え」と請求されるリスクを考えておかないとだ。

 上記の例で,黙示の合意の成立が認められないと,
10人分のカットなら4800万円
100人分であれば4億8000万円

の支払義務が発生する。

 場合によっては,会社の存亡にかかわる金額になる。
 きちんと従業員の同意を得ないで給与を減額したことによる潜在的リスクを甘く見ることはできない。

↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

↓↓参加しています。クリックでご協力お願いします。↓↓
金沢市の人気ブログランキング
posted by 内田清隆 at 11:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2011年04月22日

急増する労働審判?

 最近短い間に3件の労働審判事件に関わることになった。

 リーマンショックで多くの製造業の工場がストップしたときにも多数の労働審判事件にかかわったが,それ以来の労働審判事件ラッシュである。
 
 事件番号を見てみるとそれほど事件数が多くはなさそうである(某裁判所では4月も終わりというのに1号事件だった)。
 だとすると,個人的な偏りに過ぎないのかもしれない。しかし,労働事件が増えていそうな雰囲気はある。

 事件の中身はリーマンショックのころと大きな違いがある。
 リーマンショックのころは整理解雇が不当かどうかが争われる場合がほとんどであった。
 しかし,今回は,未払残業代の請求がメインになっている。

 これは,経済動向による労働事件ではなく,未払いとなっている残業代が請求できるという「知識」が国民に広がることにより増えている労働事件なのかもしれない。
 もし,そうだとすると,今後ますます労働事件が増えていくことになろう。
 知識は必ず広がっていくものである。

 過払請求ブームの次は,未払残業代請求ブームが来る,そんなうわさを聞いたことはあるが,未払残業代の請求は非常に労力がかかり,そんなに増えるとは思っていなかった。
 さて,どうなるのであろうか。
 

↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

↓↓参加しています。クリックでご協力お願いします。↓↓
金沢市の人気ブログランキング  
posted by 内田清隆 at 23:44| Comment(1) | TrackBack(0) | 労働問題

2011年02月11日

契約更新がされないと雇用契約はどうなるか? ー無効な雇止め後の契約関係

  1年だけという期間限定で契約社員を採用した。
 その1年がすぎ,契約期間が切れてしまった。ところが,特に更新の手続きをとらずに同じ仕事をさせ続ける。
 わりと良くある話である。

 そんな場合,新たな雇用契約書がかわされなくても,当然に雇用契約は継続されることになる(民法629条)。
 問題となるのは,その契約の契約期間だ。
 前と同じ1年契約になるのか,それとも正社員同様期間の定めのない契約になるのかが問題だ。
 民法629条からははっきりしない。

 東京地裁平成11年11月29日決定は,以下のように正社員同様期間の定めのないものになるとしている。
「期間を定めた労働契約の期間満了後に労働者が引き続き労務に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、民法629条1項により黙示 の更新がされ、以後期間の定めのない契約として継続されるものと解され」る。

 一方,東京地裁平成15年12月19日判決は,以下のように期間1年の契約社員になるとしている。
 「原告と被告会社間の労働契約は、期間を1年と定めて締結されたものにすぎず、…黙示の更新がされたと推定されるにとどまるというべきである(民法 629条1項)。そして、この場合の更新後の契約期間は、同条の文言どおり、従前の契約と同一条件であり、1年間と推定するのが相当」

 多くの裁判例では,「諸般の事情」に応じて,当事者の意思を推測して,期間の定めなしとしたり,前に決めていた期間の定めがあることにしたりしているようだ。
 労働関係の問題は「諸般の事情」で決まることが多い。
 仕方がないとはいえ,「諸般の事情」で結論が変わると結論が予想できない。困ったものである。
 
 いずれにせよ最初は契約社員でも,更新手続きをきちんとしていない場合などには自動的に正社員になってしまう可能性がある。
 そのことは覚えておくべきであろう。

【参考 民法第629条1項】
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用したものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

↓↓参加しています。クリックでご協力お願いします。↓↓
金沢市の人気ブログランキング  

Twitterボタン

posted by 内田清隆 at 10:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年12月25日

高年齢者雇用安定法と再雇用の雇止め

 以前も述べたたが,定年後の継続雇用制度に関する社内規則は,しっかりと法に基づいて作成されなければいけない。

 そればかりでなく,京都地方裁判所の平成22年11月26日の判決などの流れからすると,そもそも65歳までは原則雇用を継続しなければいけないと考えるべきかもしれない。
 
 同裁判例は,定年後に1年契約で再雇用されたが,1年で契約更新がされずに,辞めさせられた者が会社を訴えったという例である。
 裁判所は,
「就業規則で,再雇用に関し,一定の基準を満たす者については『再雇用する 』と明記され,期間は1年毎ではあるが同じ基準により反復更新するとされ,その後締結された本件協定でも,就業規則の内容が踏襲されている。そして,現に原告は上記再雇用の基準を満たす者として再雇用されていたのであるから,64歳に達するまで雇用が継続されるとの合理的期待があったものということができる。」
「原告が60歳定年までの間,平成7年4月以降統合前のB社及び統合後の被告において期間の定めなく勤務してきたことを併せ考えると,本件再雇用契約の実質は,期間の定めのない雇用契約に類似するもの」

であるとし,そのような者を辞めさせるには,正社員を解雇するのと同様の理由が必要であると判示し,会社に300万円以上の賃金の支払を命じた。

 就業規則に「再雇用する」と明記し「同じ基準により反復更新する」と規定したことが会社側が裁判に負けた原因ともいえる。
 しかし,そもそもの法の趣旨からすれば,就業規則を変えたところで65歳までは原則雇用を継続しなければいけないと考えるべきかもしれない。

 70歳を過ぎても元気に働いている人もまわりに多い。 
 現在の高齢化社会すれば,定年60歳は若すぎるというのが常識なのかもしれない。


↓↓弁護士ブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。↓↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

↓↓参加しています。クリックでご協力お願いします。↓↓
金沢市の人気ブログランキング  
posted by 内田清隆 at 10:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年12月01日

従業員の私用メールを監視してもいいの?その2

 会社は,従業員が会社のPCやサーバを利用して行った私用メールを監視してもよいのだろうか?
 先日のブログで紹介した東京地裁の平成13年12月3日の判決では

 @私的使用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合

 A責任ある立場にある者でも,これを監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合

 B社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合
 など・・・社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り,プライバシー権の侵害となると解するのが相当である。

 とされている。


 かなり会社に甘い判決だ。
 この判決の考え方でいくと,まったく理由がないのに,趣味で従業員のメールをのぞいたといった例外的な場合以外は社員のメールを見るのは自由ということになってしまう。

 プライバシー保護が声高に主張される現在,コンプライアンス経営を考えるのであれば,ここまで甘い裁判例をうのみにはできない。
 しかし,職場で行う使用メールのプライバシーについて,それほど神経質になる必要はなさそうだ。
 同判決は,「社員に一切のプライバシー権がないとはいえない。」と述べている。
 プライバシー権があるとしても,さほど保護されるものでないことは間違いなさそうだ。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
↑↑弁護士がしているブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。

金沢市の人気ブログランキング  
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。

Twitterボタン
posted by 内田清隆 at 18:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年11月30日

従業員の私用メールを監視してもいいの?その1

 会社は,従業員が会社のPCやサーバを利用して行った私用メールを自由に見てよいのか?

 会社のPCから私用メールをすることは普通は禁止されている。
 だとしてもそれを閲覧することはプライバシーの侵害にならないのかと争われる場合も多い。

 東京地裁の平成13年12月3日の判決でいくとたいていの場合は問題がなさそうである。
 その事案では,ある部下から食事の誘いをして断られた上司のもとに,部下が誤って,その上司を批判するメールを送ってしまった(ひどい,うっかりである)。
 それを見た上司がその部下のメールをこっそりと閲覧するようになり(これも,ひどい),その後,部下にパスワードを変えられてしまってからは,社内IT部に依頼して,その部下のメールの転送を受け続けていたという事案である。

 そんな場合でも裁判所は,
「セクシャルハラスメント行為の疑惑を受けているのが被告本人であることから,事後の評価としては,被告による監視行為は必ずしも適当ではなく,第三者によるのが妥当であったとはいえよう。しかしながら,被告がZ事業部の最高責任者であったことは確かであり・・・,自己の端末から原告A子及びFの電子メールを閲読したその方法は相当とはいえないが,3月6日以降は,担当部署に依頼して監視を続けており,全く個人的に監視行為を続けたわけでもない。」
 として,上司がメールを見た行為を違法ではないとした。

 地方裁判所による古い裁判例に過ぎないし,この判決には批判が多いことも思うと,今後の判断がどうなるのかはわからない。
 しかし,裁判所によるプライバシー保護意識が高まってきたとも思えない現状,さほど現在でも結論はかわらないのかもしれない。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
↑↑弁護士がしているブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。

金沢市の人気ブログランキング  
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。

Twitterボタン


posted by 内田清隆 at 08:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年11月22日

着替えの時間は労働時間?

 着替えの時間は長いものではない。しかし,ちりも積もれば山となる。
 それが賃金支払いの対象になる労働時間であるかは重要な問題だ。

 この点,「最高裁が制服や作業着への着替えの時間も労働時間に含まれると決定した!」という説明をよく目にする。
 誤りとまではいえないが,かなりいい加減な説明である。
 正確には,最高裁は,平成12年3月9日に,出退勤時の着替えの時間も,「事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは」,労基法上の労働時間に原則含まれるとしただけである。

 その事例では,作業服等の装着が法律上も義務付けられており、その装着を所定の更衣所等において行うものと会社が命じていた。
 最高裁は,その事例において着替えの時間も労働時間になると示したにすぎない。
 また,その事例でも,昼食休憩中における作業着の着脱時間は労働時間とされていない点も注意が必要だ。

 最高裁は,事業者内で着替えをするよう命じられていなくても「余儀なくされている」場合には,労働時間に含まれるとしている。
 性風俗店の猥褻なコスチュームのようにそれを着て出勤するのは常識的に不可能な場合であれば,会社が店で着替えをするよう命じていなくても「余儀なくされている」として着替え時間は労働時間に含まれるという意味だと思われる。
 しかし,どのような場合「余儀なくされている」といえるのは不明確であり,今後の検討課題であろう。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
↑↑弁護士がしているブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。

金沢市の人気ブログランキング  
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。

Twitterボタン
posted by 内田清隆 at 18:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年09月20日

勤務時間外の犯罪行為で懲戒解雇にできますか? その2

 勤務時間外の犯罪行為を理由に従業員を懲戒解雇にできるだろうか?下記の裁判例を分析してみた。

 以下,分かったこととして,
1 どんなにかわいそうと思える事情があっても罰金で済まずに正式裁判となっている場合には懲戒解雇は有効とされている。

2 3番の事例と8番の事例は同じような事例でありながら,結論が分かれた事例であり,限界事例といえる。
 その事例からして罰金刑で済むような場合には,業務と一定の関係性があっても懲戒解雇は許されるか微妙である。

3 もっとも2番の事例のように罰金にすらならなかった場合でも,特殊な事情があれば,懲戒解雇は有効となる。

 結局は,ケースバイケースなのだが,罰金刑で済むような場合には,最低,その事件により実際に信用を落としたとか,職場に混乱が生じたといった事情がないと,懲戒解雇にすることには問題がありそうだ。

 もっとも飲酒運転の事例が多いが,飲酒運転の厳罰化が進んでおり,現在であれば,違う判断になるケースも少なくはなさそうだ。

懲戒解雇・免職が有効
 1 東京地裁 平成15年12月8日
  電車内痴漢(迷惑防止条例違反) 
  懲役2月執行猶予4年 
 2 新潟地裁 平成元年4月2日
  機動隊員を3回殴打で現行犯逮捕 
  起訴猶予 
  戒告歴2回 国鉄職員
 3 甲府地裁 昭和58年3月28日
  酒酔い運転で物損事故(道交法違反)
  罰金5万円
  トラック運転手
 4 大阪地裁 昭和56年3月24日 
  公職選挙法違反
  懲役10月・執行猶予4年
   事務員が断りづらい立場で行ったもので情状酌量余地あり 
 5 東京地裁 平成18年5月31日
  ベランダに父親の死体を遺棄 
  懲役2年 執行猶予3年 
 6 最高裁  昭和49年2月28日
  デモで公務執行妨害 
  懲役6月執行猶予2年
  国鉄職員
懲戒解雇・免職が無効
 7 最高裁  昭和49円3月15日 
  デモで飛行場内に不法に立ち入り逮捕
  安保特別法違反・罰金2000円 
  広く報道 大会社の一事業所の工員
 8 最高裁  昭和45年7月28日
  酔って見ず知らずの居宅に侵入し逮捕
  罰金2000円 
 9 最高裁  昭和61年9月11日
  酒酔い運転により物損事故
  罰金5万円 
  タクシー運転手
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
↑↑弁護士がしているブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。

金沢市の人気ブログランキング  
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。
posted by 内田清隆 at 09:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年09月18日

勤務時間外の犯罪行為を理由に懲戒解雇にできますか? その1

 従業員が勤務時間外に犯罪行為を起こした場合に,懲戒解雇をすることはできるであろうか?

 「そんな犯罪者を雇い続けられない!当然できるだろう」と思われるかもしれない。
 しかし,勤務時間外の従業員の行動には会社の管理は及ばないとして,懲戒解雇にはできないという考え方もあるのだ。

 裁判所の判断は,ケースバイケースとなっている。
 裁判所は,勤務時間外の行為であっても,会社の信用を害したり,会社の秩序を害したりする場合があるため,懲戒解雇は可能としている。
 しかし,どんな場合でも犯罪行為があれば懲戒解雇できるとしているわけではなく,一定程度以上の悪質性がある場合に限定している。

 考えてみれば当たり前の話だ。
 スピード違反も立派な犯罪である。しかし,軽微なスピード違反で,自動車の運転と関わりのない従業員を懲戒解雇するのはやりすぎだろう。
 
 そこで,問題となるのが,どのような場合,解雇が可能なのかである。
 いくつかの裁判例を調べてみての感じでは,

 正式裁判になり執行猶予付きの有罪判決
 →懲戒解雇可能
 略式裁判になり罰金を命じる有罪判決  
 →懲戒解雇可能な場合もだめな場合もあり微妙
という感じであった。


 次回には,具体的裁判例を分析してみよう。
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
↑↑弁護士がしているブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。

金沢市の人気ブログランキング  
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。

Twitterボタン

posted by 内田清隆 at 08:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年09月03日

上手な解雇の仕方を考える3−失敗例から学ぶ

  公務員において,解雇問題で訴訟になるケースは多い。
 前回のブログで,その最大の理由は,優しさの欠如だと思うと書いた。
 具体例をみてみよう。

 平成20年11月26日 神戸地方裁判所判決(控訴審・平成21年04月24日 大阪高等裁判所)は,消防署職員が,通勤途中に酒気帯び運転で物損事故を起こし懲戒免職となり,その有効性が争われた裁判である。

 同職員は,事故後すぐに,警察や上司に報告し,顛末書や誓約書を提出したが,「4月3日に1時間35分,同月11日に1時間5分,同月20日に15分,計3回にわたって」事情聴取をされた後,約1か月後の5月11日に懲戒免職になってしまった。

 消防局は,5分単位で時間を計り,3回に分け,3時間以上も事情聴取を行い,その際の記録をきちんととっていた。
 これだけでも,消防局が,いい加減な手続きで懲戒免職をしたわけではなく,きちんとした手続きを行っていたこと,その手続きをきちんと記録していたことが分かる。
 
 ところが,原告からは,
 「事情聴取を受けているが,これはあくまで処分をする側の必要からする事実調査でしかなかった。懲戒免職処分をするに当たり,被処分者には,当然に告知,聴聞の機会が付与されなければならず,この手続を欠く本件処分は,違法といわざるをえない。」
 と主張されている。
 
 つまり,消防局は,原告から「事情聴取」として事実を聞くだけであったのだ。
 原告に対して,「懲戒免職にしようと考えているが何か言い分があるか」と聞くこともせず,ましてや,原告に対して,懲戒免職にせざるを得ない事情をきちんと説明して理解を得ようともせずに,事件から1か月もたってから突然に原告を懲戒免職としたのであろう。

 消防局の態度は余りに冷たく,「優しさ」が不足していたと非難されても仕方がないであろう。

 最終的に,裁判所は,一審,控訴審とも,
 ・ 酒気帯び運転の事実をすぐに職場に報告していること
 ・ 過去30年間懲戒処分歴も事故歴もないこと
 ・ 同僚など681名による処分軽減を求める嘆願書があること
 などから,免職処分を無効であると判断した。

 681名からの嘆願書が提出されたというのも異様な感じである。
 いかに,懲戒免職により,原告がうろたえたのかが分かる。
 判決文だけ読むとそもそも懲戒免職が相当な事案であったとは思われないが,消防局は,「お役所仕事」として懲戒免職を進め,感情をこめずに,書面だけで手続きをとった。
 そして,書面上はすきがないが,納得を得る努力を欠いたまま懲戒免職としたため,訴訟になってしまったのだろう。


 平成19年05月21日 大阪地方裁判所判決(控訴審・平成20年08月29日 大阪高等裁判所)は,小学校の教員が,能力不足などの理由から学級崩壊をひき起こし免職処分となり,その有効性について争われた裁判である。
 1審では免職は有効とされたが控訴審では無効とされた。

 「食べ物で遊ぶことがエスカレートし,みかんの皮を折り曲げて汁を飛ばしあったり,窓から外にミニトマトを投げたり,窓の桟にジャムを塗りつけたり,さらには,牛乳瓶を床に投げつけ,皿を割る子どもも出てきた。掃除の時間には,ほうきの柄で天井をつつくなどして遊び,時間内に掃除を終えることが難しくなった。授業中か否かにかかわらず学級文庫や筆箱,掲示物,テストや配布物を破って窓から捨てたり,学級に備えている大縄を窓からつるして遊ぶことも頻繁に起こった。」
 「3学期になると,子どもらはチャイムが鳴っても席に着こうとせず,授業が始められないことも多い上,とりわけ男子と女子の仲が悪く,喧嘩が絶えない状態であった。」

 というのだから相当のものである。
 担任の教師も,病気などを理由に,学校を頻繁に休むようになってしまっている。
 判決を読む限り,教師として能力に問題があったことは確かだ。

 しかし,やはり問題となるのは辞めさせ方である。

@  平成17年1月14日,校長は,原告を校長室に呼び,原告が校長への批判をしており転勤を考えていると公言していることを指摘し,原告に転勤を勧めた。
A  同年1月17日,原告が体調不良のため年休をとると電話連絡した際に,校長は,同日が転勤願の提出期限であると伝え,これをバイク便で学校に届けさせた。
B  その後,市教委から,新任の教諭を異動させるのは異例のことであるため,原告の勤務状況を報告するよう指示を受けると,校長は,原告を免職処分とすべきと進言するようになった。
C  そして同年3月28日,市教委において,原告に対し,校長立会いのもとでの事情聴取が行われ,同日中に,大阪市懲戒等審査事務嘱託の審査に付し,意見聴取が行われ,同年3月31日に免職処分となったのである。

 規則に定められた手続きに従い,大きな問題のある教員を免職としている。
 しかし,校長は,心をこめて原告と話合うどころか,転勤しろと言っていたにもかかわらず,ろくな説明もしないまま免職させたのである。

 このような辞めさせ方,誠意のない辞めさせ方をしてしまっては,訴訟になるのは避けられないだろう。

 解雇に必要なもの,それは,何よりもまず優しさである。

 にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
↑↑弁護士がしているブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。

金沢市の人気ブログランキング  
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。

Twitterボタン

posted by 内田清隆 at 09:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年08月26日

上手な解雇の仕方を考える2−書面が完璧でも始まらない

  公務員において,なぜ解雇問題で訴訟になるケースが多いのか?

  調べてみると「日の丸・君が代」「国鉄民営化」といった政治的な理由から訴訟になっている場合も多いことが分かった。
  しかし,最大の理由は,優しさが欠如しているということだと感じた。

  解雇問題で訴訟にならないために注意すべき点の一つは,就業規則にきちんと則るなど,規則に基づいたきちんとした手続きをとることだ。
 就業規則などのルールを無視して解雇をすれば,従業員にどんな問題行為があったのだとしても,解雇は無効と判断されてしまう可能性が高まる。

 もう一つの注意点は,従業員の問題行為について,きちんとした記録をのこしておくことだ。
 裁判になってから,会社が「従業員は,こんな悪いことした」と主張しても,証拠がなければ,従業員は「いやしていない」と主張し,水掛け論で終わるケースがほとんどだからである。

 ところが,市などの公的機関は,かかる注意を十分に行っている。
 さすが公務員であり,驚くほど細かい点まで書類として記録を残している。
 また,規則を無視して手続きを進めることは決してなく,杓子定規に規則に基づき手続きを進めている。
 にもかかわらず,公務員において,不当解雇として裁判になるケースが多いのである。

 以前のブログにも書いたが,解雇において重要なことは,納得して辞めてもらうようできる限りの努力をすることである。

 解雇は,一人の人間の生活の糧を奪う強力な手段である。
 そう考えれば,どんな従業員であっても,納得して辞めてもらうようできるかぎりがんばらないといけない。
 それこそが解雇に必要とされる優しさなのである。

 これを忘れて「お役所仕事」になってしまい,感情をこめずに,書面だけで手続きをとると,書面上はすきがなかったとしても,納得を得ることはできない。
 そうなれば,訴訟になってしまうケースが増えてしまうのである。
 そして,裁判例を見ていると,公的機関においては,まさに「お役所仕事」として解雇を行っており,「優しさ」が不足していると思われるケースが多数あった。
 今度は,そのような裁判例をみていきたい。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
↑↑弁護士がしているブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。

金沢市の人気ブログランキング  
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。

Twitterボタン

posted by 内田清隆 at 09:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題

2010年08月21日

上手な解雇の仕方を考える1−なぜ,公務員で問題が?

 解雇をする際の注意点にはどのようなものがあるのだろうか?

 労働事件裁判の検索システムを利用していたら,解雇無効を争う裁判の多くが,公務員が原告であることに気づいた。
 最近10件の解雇をめぐる裁判を検索してみたところ,
   市職員2名
   公立学校教諭3名
   独立行政法人等公的機関職員3名
   私企業2名
という驚くべき結果であった。
 なんと,8割が公務員又は公的な法人の職員である。

 総務省の発表によれば,全人口における公務員の割合は3パーセントに過ぎない。
 労働問題で裁判になっている割合は,公務員が異常に高いことは間違いなさそうだ。

 いったい,この理由はどこにあるのであろうか?
 公務員に限って,不当な解雇が多くなされているということはないと思う。

 一つの理由は,公務員の持つメンタリティーにあるのかもしれない。
 公務員は,規則を守るという点を重視する。
 だからこそ,解雇された公務員も,規則が守られていないと考える傾向が強く,また,法律という規則で勝負がつく裁判を好むという傾向があるのかもしれない。

 しかし,それだけでは,ここまで多くの公務員が解雇無効の裁判をしている事実を説明できないだろう。

 公務員においては解雇のやり方に失敗がある

 つまり上手な解雇の仕方ができていないというのも理由の一つであるに違いない。
 
 判例をよく読んで,そのあたりを考えてみたい。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
↑↑弁護士がしているブログの人気ランキングです。色々な弁護士の見解を見ることができます。

金沢市の人気ブログランキング  
↑↑参加しています。クリックでご協力お願いします。

Twitterボタン
posted by 内田清隆 at 11:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題