2026年04月01日

多数のバグで開発終了、悪いのはどっち?

システム開発業務において、ひとまずの完成をみたものの、その後多数のバグが見つかり、その修正がなされないまま交渉が決裂・・・よくあるケースです。
システム開発に限らず、建設工事でも似たようなことはよく起こります。

東京高裁令和6年1月31日判決の事例は、このような場合に何に気を付けるべきかを考えるうえで参考になります。

判決事例は複雑ですが、裁判所が認定した事実を単純化すると、次のとおりです。
・システム開発契約が締結され、作成予定システムの内容が確定した(いわゆる「要件定義」がなされた)。
・その後、発注者が多くの追加の注文を行った。
・システム開発会社は、その注文が当初の決定内容の範囲内か範囲外かを十分に整理しないまま対応を続けた。
・当初完成を約束した時期を過ぎても多数のバグが残っていたため、開発会社はその修正を継続した。
・開発会社は、上記の整理不足を謝罪しつつ、当初の範囲外の機能追加については追加費用がかかる旨を説明した。
・発注者は、約1年間システムを利用し続けたが、バグが解消されないことや納期遅延を理由に契約を解除した。

このような状況で、@発注者は、完成の遅れを理由に、既払の開発代金約2000万円の返還と損害賠償を請求し、A逆にシステム開発会社は、発注者の解除により未完成となったに過ぎず、完成した場合と同様の報酬請求が認められるとして、完成時報酬から既払額を差し引いた約1500万円を請求しました。

裁判所は、
@発注者が協議を続けながら約1年間もシステムを利用していたことなどから、バグの主張は採用できず、また納期遅延についても黙示に承諾していたと評価し、発注者の請求を棄却しました。
A他方で、開発会社についても、当初契約の範囲外の部分について十分な整理を行わなかったことが、システム未完成の一因であるとして、その請求の一部を棄却し、約200万円のみを認めました。

この裁判例から学べることは、次の4点です。

@ 発注者は、バグを見つけたらすぐに主張すべし。
本件では、バグを発見しても直ちに強く主張せず、協議を続けてしまったことが不利に評価されています。
バグに限らず、契約不適合を見つけた場合には、早い段階で「問題がある」という姿勢を明確にしておかないと、後で不利に評価されるおそれがあります。

A 発注者は、使い始めたら「お金を払う方向」に傾くと覚悟すべし。
不具合のある家でも住み続ければ、それを受け入れたと評価されかねません。
不満がある状態で利用を続けること自体がリスクになります。

B 請負人は、契約外のことを安易にサービスしない。
ある程度であれば無償で対応してしまいがちですが、それが常態化すると、契約外の要求にも応じるのが当然と扱われかねません。
範囲外の対応については、早い段階で追加費用の話をすべきです。

C 謝罪はやはりリスクになる。
本件でも、開発会社が整理不足を認めて謝罪したことが、不利な事情として扱われています。
米国では安易に謝らない文化があると言われますが、日本でも、法的紛争を見据える場面では注意が必要です。


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2025年07月29日

生成AI使用は弁護士の義務? 〜ChatGPTと弁護士倫理

アメリカでは2023年アビアンカ航空事件Mata v. AviancaでChatGPTがでっちあげた存在しない過去の裁判例をそのまま証拠として提出した弁護士が懲戒となり大きなニュースになった。
同じ問題は、オーストラリアでも起こっており、アメリカでは今年もウォールマートの訴訟で同じような問題が起こった。これらの事件で、生成AIの利用と弁護士倫理の関係は急速にクローズアップされるようになった。

参考:オーストラリアでの実情
https://www.theguardian.com/law/2025/feb/10/fake-cases-judges-headaches-and-new-limits-australian-courts-grappling-with-lawyers-using-ai-ntwnfb
参考:ウォールマート訴訟
https://www.reuters.com/legal/legalindustry/lawyers-walmart-lawsuit-admit-ai-hallucinated-case-citations-2025-02-10/

とはいえ、上記の問題は生成AIがよく出力する虚偽の事実を裏付けもなく使用してはいけないという、生成AIの利用にあたっての基本的なルールを逸脱したに過ぎないともいえる。
しかし、生成AIを弁護士業務に使っていると微妙な問題はその他にも色々と出てくる。
・生成AIに質問をしても守秘義務に違反しないのか?
・生成AIを使用したことを依頼者に伝えないことは誠実義務に違反するか?
など、生成AIと弁護士倫理の関係については気になる問題が多い。

そんなことが気になって調べてみたら、アメリカではさらに先へと議論が進んでおり、これらの問題は後回しにされていた。
すなわち、生成AIと弁護士倫理に関するアメリカ法曹協会(ABA)の公式見解は、「生成AIを使う場合」にどのような場合弁護士倫理違反になるかという問題は後回しにして、その逆の問題から議論を進めていたのである。
つまり、
「生成AIを使わないこと」は弁護士倫理違反にならないか
という問題である。

参考:アメリカ法曹協会公式見解512号(2024年7月29日)
https://www.americanbar.org/content/dam/aba/administrative/professional_responsibility/ethics-opinions/aba-formal-opinion-512.pdf#page=3

最終結論は、将来的に技術発展により、ある分野においては生成AIを使わなければ弁護士倫理違反になる可能性があるが、現在のところそこまでではないというものではあった。

しかし、一方で、弁護士は、生成AIの専門家になる必要はないとしても、必要な知識を取得し、利用するかしないかについて、適切に選択する必要があるともされており、もはや生成AIを無視することは弁護士倫理違反になるという見解を示していた。

好むにせよ好まないにせよ、今後は、生成AIについてきちんと学んでおかないと弁護士失格になるというわけだ。
どうせ学ばなければいけないのであれば、楽しんで学んでいきたいものだ。


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2024年08月04日

AI VS 人間の現在 〜AI時代の弁護士像

2013年3月、第2回将棋電王戦で、佐藤慎一四段(当時)が、現役のプロ棋士として初めてAIに公式の場で敗れた。その後、憑き物が落ちたかのようにプロ棋士たちが次々とAIに敗れていった。私を含めて、多くの将棋ファンが衝撃を覚えた出来事であった。

その4年後の2017年4月1日,当時名人だった佐藤天彦九段は,人間の名人として初めてAIに敗れた。いいところなく完敗であったが、既に驚きはなかった。将棋において既にAIが人間を超えていたことは明らかになっていたのだ。

ATVS.png
(撮影/川村直子) (c)朝日新聞社

圧倒的に強いAIが人間に勝つ惨殺ショーを好んでみたい人はいない。以降、AIと人間が本気で勝負をするという興行も行われなくなってしまった。


 2019年10月10日,東京カルチャーカルチャー(渋谷)にて開催された「商標調査対決AI VS 弁理士 」イベントで,AIが弁理士に勝った。
AIが弁理士に勝ったのは,ロゴ等の画像商標について,似ている商標がないかを検索する勝負(判定は,ある元審査官による)。「似ていると思うか」という人間的感覚の判断においてAIが人間に勝ったということが衝撃的だった。

 2020年12月8日,浙江大学光華法学院とアリババグループ傘下の研究所主催で行われた契約書レビュー大会において,AI弁護士と人間弁護士の連合チームが優勝と準優勝になり,人間弁護士だけのチームを圧倒した。

 その頃から、人間とAI対決の興行は、それほど話題にもならなくなった。特定の分野では、AIが人間を超えていることは明らかであり、興行としての価値がなくなってしまったのかもしれない。

 ある記事によると、アメリカではすでに、100の大型法律事務所の内41の法律事務所でAIを日常的に利用しており、AIの情報を鵜呑みにして存在しない裁判例を存在するとして書面を裁判所に提出した弁護士らが次々と懲戒処分にあっているそうだ。
参考
https://www.themarshallproject.org/2024/02/10/ai-artificial-intelligence-attorney-court

 2023年11月27日、イリノイ州南部地区連邦地方裁判所は、本物の弁護士(real lawyer)とロボットの弁護士(robot lawyer)の間の事件を取り扱った。
https://fingfx.thomsonreuters.com/gfx/legaldocs/gdpzwlbwjvw/MillerKing%20v.%20DoNotPay%20Decision.pdf
被告は、ネットを通じて「ボタン一つで誰でも企業と戦うことができる」AIを弁護士の代わりとするサービスを提供する会社。
原告であるシカゴの小さな法律事務所は、無資格で弁護士業を提供しているとして被告を訴えたが、結果的には被告の行為により損害が発生した立証がないとして原告敗訴となった。

 人間弁護士とAI弁護士との競争は、既に興行の段階にはなく、リアルな法廷闘争の段階に進んでいたというわけだ。

 今のところ日本では、AIを積極的に業務に取り入れている弁護士は少数派だと思うが、AIがプロ棋士に勝ち始めてから圧倒するまでわずか数年。日本でもAI弁護士が大きな力を持つようになるまで、そう時間はかからないであろう。 


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2023年09月07日

メタバースのアバターはバーチャルコートの夢を見るか?〜宇宙際弁護士の誕生

宇宙際弁護士.jpg

https://www.youtube.com/@HoushouMarine/aboutより

宝鐘マリン氏(画像)は、「宝石、宝、お金が大好きで、海賊になって宝を探すのが夢で、 海賊船を買うのが目標で今は陸でVTuberをしている」そうである。
※VTuber=「2D又は3Dのキャラクターを使って活動しているYouTuber」(大阪地裁H4.3.31)

同マリン氏に対する
「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」
という発言が名誉感情(人格的利益)を害する違法行為になるかについて訴訟で争われた。

平成4年3月31日、大阪地裁は、同発言は表面的にはマリン氏に向けられたものであったとしても、「アバターの表象をいわば衣装のようにまとって」活動する中の人の名誉感情を侵害する違法行為であるとの判決を下した(判タ1501号202頁)。

これは、「VTuberにとっては、アバターは『服』のようなものであり、アバターというファッションを全身に纏っているという感覚に近」く、アバターが「中の人」の実際の顔を全く反映していなくても、彼女・彼の「肖像」と認めることに障害はない・・・とする原田伸一朗氏の論文を意識したものと理解されている。
※知的財産戦略本部
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kanmin_renkei/dai2bunkakai/dai1/siryou5.pdf
※「サイバネティック・アバターの法律問題」
https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr411-20230629-keiomatsuo.html

確かに、生身の人間の名誉感情を現実世界で侵害する行為であれば、現行法上違法行為になることに特に異論はないであろう。
しかし、VTuberには、キャラクターこそがVTuberの本体であって、「人間」がその背後にいてキャラクターを操作しているわけではない(「中の人」はいない)という設定を遵守する「キャラクター型VTuber」も存在する。
そのようなVTuberのアバターであっても保護が必要だと考えれば、「中の人」の人格権侵害ではなく、アバター固有の人格権を考えるべきであろう。

もっとも、そのようなアバター固有の人格権は、現実の宇宙空間=uni-verseで保護されるべきものではなく、超越宇宙空間=meta-verseで保護されるべきものであり、アバター固有人格権侵害はメタバース裁判所(バーチャルコート)で救済が図られるべきなのかもしれない。
旧来型の現実の宇宙空間における裁判所は、物理的現実としての生身の人間の人格権だけを保護し、アバター固有人格権は超越宇宙空間のバーチャルコートで保護するという役割分担だ。

日本の弁護士は、日本法だけでなくもっと英米法や中国法など外国の法律を勉強し国際弁護士を目指さなければいけないと言われることがあった。
しかし、これからは、現実の宇宙空間の法律だけではなく超越宇宙空間の法律にも熟達した宇宙際弁護士inter-universal lawyerを目指さなければいけなくなるだろう。

宇宙際弁護士2.jpg https://optimizemyfirm.com/personal-injury-metaverse/

宇宙際弁護士3.jpghttps://youtu.be/PxWBmngmJtQ

※既に多くの法律事務所がmetaverseに支店を有しているが、現在のところ扱っているのは現実空間の法律だ。

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2013年07月03日

ニコ二コ動画をサイトに埋め込むと著作権侵害?

 違法にアップされているニコニコ動画やYouTubeを自分のサイトやFACEBOOK等に貼り付け埋め込んでいる例をよく目にする。
 私自身もやってみたいと思ったことがあるのだが,弁護士として,違法な動画を自己のサイトに埋め込むわけにはいかないと思っていた。

 しかし,大阪地裁の平成25年6月20日判決によれば,違法にアップされたニコニコ動画を埋め込むことは著作権侵害にならないようだ。

 裁判所は
原告は,被告において,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことが,本件動画の「送信可能化」(法2条1項9号の5)に当たり,公衆送信権侵害による不法行為が成立する旨主張する。
しかし,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,被告は,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画の引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力することで,本件動画へのリンクを貼ったにとどまる。
この場合,本件動画のデータは,本件ウェブサイトのサーバに保存されたわけではなく,本件ウェブサイトの閲覧者が,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックした場合も,本件ウェブサイトのサーバを経ずに,「ニコニコ動画」のサーバから,直接閲覧者へ送信されたものといえる。
すなわち,閲覧者の端末上では,リンク元である本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態に置かれていたとはいえ,本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であり,被告がこれを送信していたわけではない。したがって,本件ウェブサイトを運営管理する被告が,本件動画を「自動公衆送信」をした(法2条1項9号の4),あるいはその準備段階の行為である「送信可能化」(法2条1項9号の5)をしたとは認められない。

と判示した。

 要するに,違法な動画がアップされているニコニコ動画を自分のサイトに埋め込んだとしても,違法な動画を送信する主体はニコニコ動画であり,埋め込んだ人ではないのであるから,埋め込んだ人に著作権侵害は成立しないという判断だ。

 ニコニコ動画をサイトに埋め込むと,一見すると,その動画はサイトの一部になっているかのように見えるようになる。
 リンクを張ることが著作権侵害になるかという議論において,あたかもサイトの一部のようになっている場合には,著作権侵害になるという見解が有力に主張されている。
 それと同じように考えると,違法にアップされたニコニコ動画を埋め込むことも著作権侵害になりそうであり,大阪地裁の判断が出たとしてもグレーな問題であると思う。

 いずれにしても,大阪地裁の判断も,違法にアップされていることが明らかな動画を埋め込むことは,著作権侵害の幇助として違法になることを前提としており,気を付けた方が良いことはいうまでもない。

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2013年04月16日

グーグルのサジェスト機能に対する損害賠償命令

 ある人物が自分の名前をグーグルで検索しようとすると,
「〇山〇男、暴力団」「〇山〇男、犯罪者」
 といったように,サジェスト機能により犯罪行為を連想させる単語が検索候補にあげられることを不服としてグーグルを訴えたことは以前のブログでも紹介した。

 今朝の新聞によると,東京地裁は,昨日,本件につき,グーグルに対して,表示の差止と慰謝料30万円の支払を命じる判決を言い渡したようである。

 以前ブログで紹介した時点では,「仮」処分であったわけであるが,正式裁判によっても,差止が認められたというわけだ。

 報道によると,裁判所は、「表示によって男性の名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害に当たる違法な投稿記事を容易に閲覧しやすい状況をつくり出している」と指摘し,原告の請求を認めたらしい。

 裁判所の仮処分命令をグーグルが無視したため,原告は,困難な訴訟を提起することになり,ようやく勝訴判決を得たのである。
 弁護士費用だけでも30万円ではとても足りないであろう。
 にもかかわらず慰謝料30万円というのはあまりに低額に思える。 
 
 裁判所は,自己の出した仮処分命令をグーグルに無視されるという,いわば屈辱を味わっている。その上での判決なのであるから,もっと厳しいものであってもよいのではないかというのが感想だ。

 判決内容の詳細を知った後に,しっかりと判決の妥当性を確認したい。

 ちなみに「内田清隆」でグーグル検索をしてみると,サジェストされるのは,今現在では,「犯罪者」でも「悪徳」でもなく,「法律事務所」「弁護士」「ブログ」「facebook」であった。まずは,一安心である。
 「イケメン」「美男子」がサジェストされないことに対しては若干の不満も残るが,「内田清隆」で検索が行われた場合には「イケメン」をサジェストすべきだとグーグルを訴えても,残念ながら勝訴の見込みはないといわざるを得なそうである。

 
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2012年11月08日

システム開発ができない特許庁

特許庁が,出願情報を一元管理するシステム開発に失敗し,54億円を無 駄に支出したことを会計検査院が指摘したというニュースを見た。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1005R_R11C12A0CR0000/

テレビのニュースによると,請負人の能力にも問題はあったが,契約締結以降 に,特許庁から新たな機能追加などが相次ぎ,それに請負人が対応できずシステム開発が途中でとん挫したとのことであった。

特許庁でもそうなのか!というのが素直な感想である。

システム開発,プログラム開発が途中でとん挫し,訴訟となるケースは後を絶たないが,そのほとんどで問題になるのが,「最初に聞いていなかった機能追加が相次いだ」という主張だ。
私が経験した訴訟でも,必ず出てきた問題だ。

システム開発業者は,決められた仕様に基づいてプログラミングをするわけであり,発注者としては,事前に必要な機能を明確にしなければいけない。
経済産業省も述べているし,どの本にも出てくる基本的なことである。
ところが,多くの企業が同じミスをし,特許庁までもが同じミスを してしまう・・・。

建築においても,図面で見るのと完成した建物では違うことがある。
ましてや,目に見えないシステムについては,人間の想像力には限界があり,
設計段階では実施段階が想像できないということなのであろうか。
発注者としても受注者としてもくれぐれも気を付けたい問題である。


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2012年10月22日

発信者情報開示の限界と効用

インターネット上,名誉毀損,プライバシー侵害がなされた場合,教科書的には,プロバイダに対して発信者情報開示請求を行い,名誉毀損などをしている発信者のIPアドレスなどを明らかしてもらうことになる。

ところが,この発信者情報開示請求というのは使い勝手がよくない。

発信者情報開示請求をすると,プロバイダは発信者に対して,情報を開示してよいか尋ねることになるのである。しかし,「あなたの書き込みが名誉毀損だから,訴えようとしている人がいるので,あなたの情報を教えてあげていいですか?」と聞かれて「どうぞ!」と答える人はいない。
 そうすると当然,プロバイダは慎重になる。発信者が何と言おうと名誉毀損は明らかだから開示するというケースは少ない。そのため,なかなか発信者情報の開示を受けられないのである。

これでは意味のない制度では・・・と思っていたが,先日ある弁護士の講演を聞いたところ,意味がないわけではないようだ。
発信者情報開示請求をすると,発信者に誰かが裁判の準備を進めていますという連絡がいくことになる。それにより、発信者が違法な書き込みを控えることが期待できるというのだ。

なるほど,確かにそういう使い方もある。それにしてもネット上の人権侵害の救済には手間と時間がかかる。もう少し簡単な制度とプロバイダの良心を期待したい。

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2012年10月15日

あなたを誰よりも知るグーグルは裁判所の言うことを聞かない 2

 ある人物が自分の名前をグーグルで検索しようとすると「〇山〇男、暴力団」「〇山〇男、犯罪者」といったように、サジェスト機能により,犯罪行為を連想させる単語が検索候補にあげられることを不服としてグーグルを訴えた。
 その結果,東京地裁はグーグルに対して今年3月19日にサジェスト機能の停止を命じた。ところが残念なことに,グーグルはこの決定を無視しているらしい。

  関係者によると,政府は,ビッグデータを利用したターゲットマーケティングを、厳しく規制していこうとしているらしい。
  しかし,日本法で規制しようとも,グーグルがそれに従うとは思えない。
 そうなれば、いかにビッグデータの取得や利用を規制しても日本人の新たなビジネスチャンスを奪うだけの結果になりかねない。
 ビッグデータのもつプライバシー侵害の危険性は驚くベきものがある。しかし、新しいものに過度に脅えることなく,上手に付き合うことが重要だろう。

 私の実家がある浦和は,明治時代に機関車に脅え,鉄道の通過を認めなかったため,埼玉の中心的地位を大宮に奪われた苦い歴史がある。
 その二の舞は避けたい。


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2012年10月10日

あなたを誰よりも知るグーグルは裁判所の言うことを聞かない 1

 どうして,アマゾンは,こうも自分の趣味を分っているのだろうと感心していた方がいらっしゃるかもしれないが,今,1番あなたのことを知っているのはグーグルかもしれない。

 グーグルは今年,プライバシーポリシーを変更し,あらゆるメディアが取得したデータをー元管理していくことに決めた。それにより一層,利用者の嗜好に合わせた広告を提供していくことになろう。

 グーグルの提供する便利な機能を使っていれば,あなたが昨日どこにいたのか,あなたが何を検索したのか,あなたが誰とメールのやりとりをしているのか,あなたがどんな文章を書いているか,グーグルはすべてお見通しである。

  グーグルはそのビッグデータと呼ばれる莫大なデータから,家族すら知らない,あるいはあなた自身すら気付いていない,本当のあなたを分析してくれる。
 そして,そんなあなたにふさわしい最高の商品を提案してくれるのだ。
 夢のような話である。


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2012年08月26日

アップルがサムスンに圧勝

 アップルVSサムスンのiPhoneなどの特許を巡る訴訟について,カリフォルニアの連邦地方裁判所の陪審は8月24日,サムスンがアップルの特許を侵害したとの評決を言い渡し,約10億5千万ドル(約830億円)の損害賠償を命じた。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM25025_V20C12A8MM0000/

 横綱同士のセメントマッチは,既に2点リードを許していたサムスンが5回裏に満塁ホームランを打たれたというところであろうか。

 世界中で行われている両者の争いは,どこかでバランスが崩れ,一方の勝利が見えてくれば,和解に向かうであろうとたびたびいわれていた。
 確かに,激しく争われる訴訟は,どちらも自分たちが勝てる!と思っているから行われる。そして,今回の評決を受けて,サムスンが自分たちの勝利に不安を感じるようになれば,世界中で両者が和解に向かうことが期待できる。

 しかし,激しく争われる訴訟は,大会社同士の争いであっても,合理的な経営判断を見失うほどの相手方に対する感情的な怒りが原因であることが多い。
 アップルのサムスンに対する感情的な怒りはおさまるのであろうか。なにしろその感情的な怒りの源であるスティーブ・ジョブス氏は,もうこの世にはいない。そうなると,その遺志としての怒りの感情は,簡単にはおさまらないのかもしれない。

それにしても早い判断であった。
陪審員は,
GALAXY S4 G(JX1049)の製品は特許番号381号の19項の特許を侵害しているとアップルは証明しましたか?
GALAXY 10.1(WI-FI)(JX1037)の製品は特許番号889号の特許を侵害しているとアップルは証明しましたか?

といった難解な700もの争点につき,判断している。評決全文
 
 この複雑な評決フォームをうめるだけでも,1日仕事だ。
 にもかかわらず,陪審員は,すべての争点についてわずか3日で判断し,この複雑な評決フォームをうめてしまったのだから驚くべきスピードだ。
 よほど悩まずにアップル勝ちという判断に及んだということであろうか。


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2012年07月02日

違法ダウンロードの罰則化

 著作権法改正によって違法にアップロードされた著作物をダウンロードすることが禁止されたものの,罰則がないためどこまでの意味があるのか・・・というブログ記事を書いたことがある。

 私と同じことを考えた人も多かったのであろう。著作権法改正案が本年6月20日に成立し,今秋10月1日からは,違法にアップロードされた動画・音楽などをダウンロードする行為に対し,懲役2年以下または200万円以下の罰金が科されることになった。

 著作権法については,多くの様々な問題点があるため,今後も改正が予定されているのだが,違法ダウンロードの罰則化だけが前倒しで実施された形だ。

 このような改正がなされたのはレコード業界の強い圧力によるものであり,十分な議論がなされていないという批判もある。しかしながら,違法にアップロードされた著作物をダウンロードすることを違法であると決めたところで,罰則がなければ,ほとんど意味がない。そう考えると違法ダウンロードに罰則を設けることは自然なことであろう。

 とはいえ,違法アップロードが野放しにされているような現状で,違法ダウンロードを取り締まろうとすることはかなり困難であろう。本気で取締りを行おうとすれば,警察権力の不当な私生活への介入を許すことにもなるだろう。

 そう思うと,法改正にどこまでの意味があるのかは,相変わらず疑問である。


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2012年05月21日

ステルスマーケティングの違法性

 以前「食べログやらせ」は違法か?で,いわゆるステマが違法かどうかについて,基本的には違法でないが,やりすぎたら違法になるかもしれないというものに過ぎないことを説明した。
 
 その後,消費者庁は本年5月9日に「食べログやらせ」問題を受けてと思われるが,ガイドラインを一部改定し,下記の例を問題となる事例として追加した。 

 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120509premiums_1.pdf) 
つまり,代行業者に多数の投稿をさせ,「もともと好意的な評価はさほど多くなかった」場合に,「好意的評価を受けているかのように表示させること」は,問題であるということを明示したというわけだ。
 結局は,やりすぎると問題になるということであり,業者に投稿をさせること自体を取り締まろうというわけではない。
 
 しかし,好意的な評価が多いのであれば,わざわざ業者にお金を払って好意的な投稿をしてもらう理由はない。好意的な評価が「さほど多くなかった」からこそ,ステルスマーケティングを行うのである。そう考えれば,業者に投稿させることは,常に問題があると消費者庁は考えているともいえよう。
 
 とはいえ,消費者庁は,「具体的な表示が景品表示法上に違反するか否かは個々の事案ごとに判断されますので、御留意ください。」と指摘し,「違法となる事例」ではなく,「問題となる事例」とわざわざしており,どこまでやると違法になるのかははっきりしない。
 
 そもそも,不当景品類及び不当表示防止法は20条しかない法律である。そして,「実際のものよりも著しく優良であると示し・・・不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる」表示を禁止しているに過ぎない(2条1項)。
 これだけの法律で,ステルスマーケティングが違法であるかどうかを判断しようとすること自体そもそも無理があるのではないだろうか。


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2012年04月27日

Googleドライブとクラウドの法律問題

 グーグルは,今月25日,5GBまで無料のオンラインストレージ「Googleドライブ」の提供を発表 した。
 現在私が愛用しているDROPBOXであると無料は2GBまでであるため,かなりお得感がある。
 オンラインストレージの抱える大きなリスクの一つは,その運営主体の倒産による情報の消滅だ。しかし,グーグルであれば簡単に倒産しないだろうと信用されるだけのブランド力があろう。
 そう考えると,愛用者としては,DROPBOXの今後が心配である。


 とはいえ,なかなか,仕事では,オンラインストレージなどのクラウドは使いづらい。
 
 法律的には,クラウドの利用が,個人データの「委託」にあたり,個人情報保護法22条に基づき,本人の同意がいるのではないかという問題がある。
 また,本人の同意がいらないとしても,クラウドサービス事業者の必要かつ適切な監督が求められる可能性もある。しかし,グーグルを適切に監督することなど実際上不可能だ。

 しかしながら,私が実際上,活用できない理由は,そのような法律的な問題点ではない。
 一番,気になるのは,セキュリティだ。
 友人からは,「個人が保管するより,グーグル等のクラウド事業者に保管してもらった方が安全だよ」と言われた。しかし,何の保証もしてくれないクラウド事業者に極秘データを預けるというのは,やはり抵抗がある。

 さらに,気になるのが,人的な問題である。IDとパスワードが盗まれてしまえば,グーグルに落ち度はなくとも,一瞬にして,すべての情報が奪われてしまう。
 「●●社は近く破産する」「●●は過去に重大な犯罪を行ったことがある」・・・,そんな法律事務所がもつ機密情報が私の事務所から一瞬にして流出するかもしれない。そう思うと,なかなか利用に踏み切れない。
 これにしても,クラウドを利用しなくても,泥棒に入られることを思えばあり得ることなのであるから,合理的に考えると,クラウドを利用しない理由にはならないのかもしれない。
 しかし,理性ではそう思っても,不安を覚えてしまう。

 毒見をさせるようで卑怯な気もするが,多くの会社が導入するようになり問題が生じないようであれば,私も仕事でもオンラインストレージの導入を検討することにしよう。


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posted by 内田清隆 at 18:46| Comment(0) | TrackBack(0) | IT法

2012年01月07日

「食べログやらせ」は違法か?

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

 昨日テレビを見ていたら,モザイクをかけられたある飲食店のオーナーが
「罪の意識が薄く,ついやってしまった」
と業者に頼んで食べログにやらせ記事を書いてもらったことを反省していた。

 しかし,やらせ記事を書いてもらうことは基本的に法的には「罪」にはならず,罪の意識は薄くて間違っていない。

 最近はやりのいわゆる「ステマ」=ステルスマーケティングの違法性の問題である。

 消費者庁は,「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」として,
ただし、商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。
という見解を示している。

 回りくどい言い方だが,要するに
 基本的には違法でないが,やりすぎたら違法になるかもしれないという程度なのである。

 米国では
、連邦取引委員会(FTC)が2009年12月に「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」 を公表し 
 広告主からブロガーに対して商品・サービスの無償での提供や記事掲載への対価の支払いがなされた場合、FTC法第5条で違法とされる「欺瞞的な行為又は慣行」として広告主は同法に基づく法的責任を負う
 との基本的に違法であるという解釈指針を示しているらしい。
 イギリスでもネットでやらせ記事に対して法的規制が行われ始めたと聞く。
  
 日本でも,何らかの法的規制は必要なのではないだろうか。サクラなんて昔からある話ではある。しかし,ネットを通じたサクラの影響力は昔のサクラとは比較できない。

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posted by 内田清隆 at 11:13| Comment(2) | TrackBack(0) | IT法

2011年12月27日

「ウィニー(Winny)」作成者に無罪判決

 ファイル共有ソフト「Winny」の開発者が著作権法違反の幇助罪に問われた裁判で、最高裁は、今月19日、高裁の無罪判決を維持した。
判決全文 
 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111221102925.pdf

 最高裁は,悪用が可能なソフトを開発・提供し,それが犯罪で使われた場合であっても,下記の一定の場合だけ,
@ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,
A当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,

 当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。
 つまり,犯罪になると判示した。,

 @は,違法コピーをしようと準備している人に対して,違法コピーをさせるためにWinnyを提供する場合であり,犯罪になることは当然であろう。

問題はAである。
 Aは二つの要件に分けられる
  ㋐「例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合」
  ㋑「提供者もそのことを認識・認容している場合」
である。
 最高裁は,
結構な割合の人がWinnyを違法コピーに使うことが予想された場合で,開発者もそのことが分かって,受け入れていた場合は,犯罪になる
としたわけである。

 最高裁は,「Winnyのネットワーク上を流通するファイルの4割程度が著作物で,かつ,著作権者の許諾が得られていないと推測される」として,本件につき㋐の要件は満たすとした。

 しかし,開発者が
「もちろん,現状で人の著作物を勝手に流通させるのは違法ですので,βテスタの皆さんは,そこを踏み外さない範囲でβテスト参加をお願いします。・・・」
などとWinnyを著作権侵害のために利用しないように求める書き込みをしていたことなどから,㋑の要件は満たさないため無罪としたのである。

 結論には異存はないが,何とももやもやした判断方法である。
 「例外的とはいえない範囲の者」とは,いったいどれぐらいなのだろうか。
 10%だとどうなのだろうか,5%だとどうなのだろうか。極めてあいまいである。
 
 Winnyが違法コピーに使われることを開発者は予想していなかったはずはない。だから,開発者は,違法に利用しないよう呼びかけていたのだ。
 すると,最高裁は,違法コピーの認識はあったものの,例外的とはいえない範囲の者が違法コピーするという認識はなかったとして無罪にしたのだろうか。
 あるいは,違法コピーの認識はあったものの,そのようなことを認容まではしていなかったとして無罪にしたのだろうか。
 そのあたりもよく分からず,相当あいまいな判断である。
(ちなみに,最高裁は,「例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めるに足りる証拠はない。」といっている・・・)

 そんなあいまいな判断基準で,刑務所に行くかどうかが決まるというのは何とも恐ろしい。
 やはり,裁判所ではなく,法律により明確なルールを作るべきであろう。


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posted by 内田清隆 at 10:21| Comment(0) | TrackBack(0) | IT法

2011年12月23日

改正不正競争防止法

 改正不正競争防止法が,本年12月1日から施行された。

 大きな改正点は,
@刑事訴訟における営業秘密の秘匿
Aアクセスコントール等の回避装置の規制強化
である。

 @は,営業秘密侵害罪の審理において,公開が原則の刑事訴訟の法廷で営業秘密が明らかにされてしまう問題を克服するための改正である。
 営業秘密にかかわる刑事訴訟において,固有名詞を]で置き換えるなどして営業秘密を公開しないで審理ができるようにしたというものである。

 Aは,DVDディスクなどに施している複製を防止する技術や、ゲーム機などに施している複製されたゲームを起動させない技術などのアクセスコントロール(技術的制限手段)を回避するために使用される装置に対する規制強化である。 
 以前のブログでも紹介したが以前は,アクセスコントロールの回避機能「のみ」を有する装置の販売は禁止されていたが,そのような機能を有していても,他の用途にも用いることのできる装置の販売は認められていた。

 しかし,今回の改正により,この「のみ」要件を外し,アクセスコントロール回避機能をもつ装置一般の販売が禁止された。
 さらに,アクセスコントロールの回避装置の販売には5年以下の懲役,500万円以下の罰金という刑事罰も導入され規制が強化されている。

 主な狙いは違法な海賊版ゲーム等を使えるようにする装置,いわゆるマジコンの撲滅のようであるが,うまくいくのだろうか。
 自分が子供のころから,いたちごっこが続いているようであるが・・・。

 それにしても,アクセスコントロール回避装置規制に関する不正競争防止法のこの条文。何とか,もう少し分かりやすくしてほしいものだ。
不正競争防止法2条1項10号
営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を させないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録(以下 この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能 を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を 当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)


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posted by 内田清隆 at 12:11| Comment(0) | TrackBack(0) | IT法

2011年11月30日

システム開発と商法512条 

 システム開発をするとき,最初の契約段階で,正確にどれぐらい開発に手間がかかるのかを見積もるのは難しい。
 実際にやってみると予定より大幅に手間が増えることは多い。
 そして,予定より大幅に手間が増えた場合の追加報酬について,金額はもちろん支払うかすら決めてないことを理由に,よくもめるのである。
 では,そのような場合,追加報酬を請求することができるのであろうか。

 大阪地裁平成14年8月29日の判決では,
商法512条から,約束がなくても「原告(ユーザー)には,仕様変更部分について相当額の追加開発費支払義務が生じる」
として,増えた手間分の追加報酬請求権を認めた。

 以前のブログ「有料と聞いていなくても報酬の支払義務はあります」でも書いたたが,商法512条により,商人に何かをしてもらえば,約束がなくても相当の報酬を支払わないといけない。
 そこで,大阪地裁は同条を根拠に追加報酬請求を認めたのである。

 もっとも増えた手間分の追加報酬請求が認められるのは「仕様変更」がなされた場合である。
 東京地方裁判所平成7年6月12日判決は,システム作成の過程で当初予定された3万5000ステップが,10万ステップになったため,商法512条を根拠に追加報酬を請求したという事例である。
 その事例では,「原告の受託業務の規模が3万5000ステップであることを前提として委託代金額が決定された事実はない」,よって10万ステップは原告の受託業務の範囲内であり,商法512条による報酬請求権は認められないと裁判所は判断した。
 当初の予想以上に手間がかかる業務になったとしても,その原因が「仕様変更」ではなく,単に見積りの甘さであれば,追加報酬請求権が発生しないのは当然だろう。

 問題は,何が「仕様変更」であるかである。
 システム開発契約では最初の段階で仕様が完全に決まっていることは珍しい。
 そのため,手間が増大した場合,どこからが仕様変更によるものかの判断はとても大変である。

 それにより仕様変更かどうかで裁判では長く争われることになり,ユーザーもベンダーも長く続く裁判に疲れきる・・・といったことが少なくない。

 システム開発においては,どのような場合が仕様変更で幾らの追加報酬が発生するのかを,最初からしっかり決めておきたい。


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posted by 内田清隆 at 18:34| Comment(0) | TrackBack(0) | IT法

2011年07月20日

プログラム著作物と氏名表示権

 以前に,コンピュータープログラムの著作権における氏名表示権が問題となった事件を扱ったことがある。

 氏名表示権とは,著作物の作成者が自分の名前を表示または表示しないことを求めることができるという権利だ。
 例えば,小説の作者は,その小説が刊行されるに当たり,氏名を実名で表示してくれということも,ペンネームで表示してくれということも,表示しないでくれと求めることもできる。
著作権法19条
著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。


 問題になった事件では,A社が,自己が作成したプログラムをB社に提供した。
 そのときに,B社が自由に販売することは許可したのだが,作成者をB社と表示して販売することは許可していなかった。
 にもかかわらず,B社が自己が開発したプログラムであるかのごとく販売しているため,「A社開発」とA社の氏名を表示するよう求めた事件だった。

 判決にはならなかったが,裁判所の見解は,一般のプログラムにおいては,作成者の氏名を表示しないのが「慣行」だから,プログラム著作物において氏名表示権はないというものであった。
 そんな慣行はあるのだろうか?
 著作権法19条3項は,「公正な慣行に反しない限り、著作物の利用者は、著作者名の表示を省略することができる」としているが,別の著作者を表示をすることは,「公正な慣行」ではあるまい。

 コンピュータプログラムの著作権については,まだまだ,法的にはっきりしていない問題が多い。


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posted by 内田清隆 at 19:01| Comment(0) | TrackBack(0) | IT法

2011年02月03日

複製の主体は総合的に観察して決めろ!?−「ロクラクU」事件

 先日のブログでのべたように,最高裁は,録画予約サービスにおいて,サービス提供者が録画の主体であると判示した。
 ユーザーは,自宅の子機で,気になるテレビ番組を録画して見ている。しかし,その録画されたテレビ番組は,一度は,サービス提供者が管理している親機に自動的に保存され,ネットを経由して配信されている。
 その場合には,法的には,「録画」しているのはユーザーでなくサービス提供書であるとしたわけだ。

  普通に考えると不自然だ。
 サービス提供者は,事務所に親機を置き,子機と接続してあげているだけで,それ以上は,何もしていない。
 普通に考えると「録画」しているのはユーザーであろう。
 
 では,なぜ最高裁は,このような不自然な結論を導き出したのであろうか?
 ヒントは,金築裁判官の以下の補足意見の中にあった。

 著作権法21条以下に規定された「複製」・・等の行為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって, このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことであると思う。

 つまり,最高裁は,「録画」という言葉から「かけ離れる」ことはできないが,多少はかけ離れた不自然な解釈でもよい。
 なぜなら,著作権法は著作権者の経済的利益を守るものであり,自然に解釈して,録画予約サービスを合法としては,テレビ番組製作者の経済的利益は守れないからである。
 そのように言いたいのだと思う。

 はたして,この考え方は妥当なのであろうか? 


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posted by 内田清隆 at 07:43| Comment(0) | TrackBack(0) | IT法