2010年08月06日

「コロンブスの卵なのか?」−特許権侵害訴訟でよくある話

 大阪地方裁判所平成22年7月22日判決では,地震になると扉が自動的にロックされ,地震の揺れがおさまるとロックが解除されるという収納を発明した者が原告になった。
 そして,原告が,同様の収納を販売している大手ハウスメーカー等を被告として,特許権侵害で訴えたという事件だ。
 結果は,原告の敗訴であった。

 原告は以下の通り主張した。

「本件特許発明の実施例である球と被告物件の感震体である倒立分銅は『振動するもの』として適宜選択可能な慣用手段である」「本件明細書に実施例として記載された球を,倒立分銅と中間体に置換して被告物件の構成にすることは当業者が容易に想到して実施できる」。

 原告特許と,被告の販売品の大きな違いは,揺れを感じる装置が「球」であるか「倒立分銅」であるかという点であった。
 そして,原告は,業者であれば「球」が思いつけば「倒立分銅」も簡単に思いつくのであるから,被告の販売品は原告特許を侵害すると主張したわけだ。

 これに対して,裁判所は,以下の通り判示した。つまり,「球」が思いついたからといって「倒立分銅」が思いつくとは限らないとして,原告の主張を排斥したのだ。

 「本件明細書には装置本体の振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げるという技術思想しか開示されていないのであるから,たとえ当業者であったとしても,本件明細書の記載から被告物件の倒立分銅とラッチ保持具を用いた構成を実施できるものと認めることはできない。」

 特許権侵害をめぐる紛争では同じような流れになる場合が実に多い。
 つまり,「被告の製品は原告の特許を侵害している,微妙に違うがそんなことは原告の特許があれば誰だって思いつくことだ!」と原告が主張する。
 しかし,裁判所は,「誰だって思いつくとはいえない」として原告の請求を棄却するという流れだ。

 仮に,誰でも思いつくことであれば,開発者としては,それも含めて特許にしておかなければならない。
 そうしておかなかければ,「誰でも思いつくこととはいえない」と裁判所に考えられてしまう可能性は高い。
 
 もちろん,特許請求の範囲を広げると特許を取得するのが難しくなるという問題もあるのかもしれない。
 しかし,誰でも思いつく変更であれば,必ず誰かが思いついて真似をするわけであるから,そのような事項こそ特許に含めておかなければ特許の意味がなくなってしまう。

 にもかかわらず,「誰もが思いつく改良だ!」という主張がなされるという上記裁判と同じような争いは尽きない。
 実は,そのような争いになるときは,誰もが思いつく変更ではなく,ちょっとした変更であるがコロンブスの卵である変更がなされているのではないのだろうかと疑うことも多い。
 それとも,本当に誰もが思いつく変更であっても,特許の範囲に入れ忘れられることが多いのだろうか?

 上記裁判で裁判所は,以下の通り判示している。原告としては,被告製品は原告特許をより悪くしたものであり,そんな真似のされ方は想定できないと主張したのであろう。
 しかし,これもよくなされ,よく排斥される主張だ。
 改悪される場合も想定して特許を取得しておくことが重要ということであろう。

 被告物件におけるラッチ保持具は,地震終了時に収容物が扉側に倒れるなどして外方に付勢している場合に,ロック状態が解除されることを防ぎ,収容物が落ちることを防止するという機能を果たしているのであるから,被告物件の構成が本件特許発明の改悪にすぎないという原告の主張は当たっていない。」

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posted by 内田清隆 at 08:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 知的財産法
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