2013年03月16日

カルロ・クリヴェッリと魔術的裁判

 私の最も好きな画家にカルロ・クリヴェッリがいる。

 近代的合理思想が広がるルネサンス時代のイタリアにおいて,断固として魔術的思想を貫き通した画家である。
 クリヴェッリは「遠近法」を空間を合理的に描く手段としてではなく,二次元の世界を不可思議に歪曲し眩惑的な効果を生み出すだけのために利用し,リアルにものを描くために開発された精微な「写実法」を非現実的なまでに徹底することで,現実世界の虚構性を白日の下にさらけだした。

 まだ地球が平らで,山を越えれば神々の唄が聞こえた魔術的世界に生きた「最後の魔術師」ともいうべき画家であった。

 魔術的時代が終わっても,司法の世界では,クリヴェッリの生きた魔術的世界の影響を色濃く残した裁判がつい最近まで行われていた。
 重い石を括り付けて川に沈めて,無罪であれば浮き上がってくるとして,浮き上がってこなければ有罪であると判断した魔女裁判が広がるのは,ルネサンス時代以降であるし,原告と被告が刀を持って決闘して,正しい者が勝つはずであるとし,決闘の勝者を勝ちとする決闘裁判は19世紀までイギリスでも行われた。

 そういえば,かちかち山においてウサギがタヌキを懲らしめるためにした火責めと水没といった事柄は、タヌキを痛ぶるためではなく、タヌキが無実であるならば、やけどもしないし溺れもしないはずだという魔術的裁判を暗黙の前提として書かれている物語であり,ウサギは裁判官の役目を担っていると聞いたことがある。

 実は,現在でも,裁判と魔術的思考は切り離せないのかもしれない。裁判において「正義は勝つ」と信じている者は多い。
 しかし,正義が勝つ理論的根拠はないし,正義は勝つと信じるのは,無罪の者が決闘で負けるはずがないという魔術的思考と何も変わらない。そのため,私も常々,依頼者に対しては,「正義は勝つとは限りませんよ」ということを伝えることにしている。

 しかし,クリヴェッリ愛好家としては,最後には正義は勝つと信じたいし,そう信じることは悪いことではないだろう。
 大事なことは,そう信じた上で,魔術に頼らないことだと思う。


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posted by 内田清隆 at 15:17| Comment(0) | TrackBack(0) | その他

2013年03月05日

ブラック会社は労働紛争にならない?

残業代もろくに支払わないで不当解雇を繰り返す,いわゆるブラック会社。そのような会社は,頻繁に裁判所に訴えられ,多数の労働紛争が生じるはずだ。そう思っていた。
 しかしながら,個人的な経験でいうと逆である。従業員の待遇が非常に良く,給料も高く,休みもきちんと取らせる,そんな会社こそ,よく訴えられており,労働紛争が生じている。
 
矛盾した話だと思われるが,考えてみれば合理的である。
裁判になるほとんどの労働紛争が解雇を巡る紛争である。
そして,非常に良い待遇の会社に勤めている者にとって,解雇は大きな問題となる。そう思うと,不当でない解雇であっても,なんとか裁判所に訴え出て,解雇を取消したいと思うであろう。
一方で,ブラック会社に勤めている者にとっては,解雇された会社よりいいところはたくさんある。そう考えると,大変な裁判をしてまで争うよりは,別の就職先を見つけて,そこで働いた方がいいと思うのは自然である。

人間は必ず慣れるものである。いかに好待遇であっても,それだけでモチベーションは上がらない。もちろんブラック会社であるべきだということではない。しかし,好待遇であるから,労働紛争は生じないという考えは甘いということは間違いない。

世の中なかなか難しいものである。


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posted by 内田清隆 at 10:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題